アクティブな話
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こんなもんも倒れるんや、とつぶやきました。通り慣れた道路には鉄筋コンクリートのビルが横倒しになっていました。働き慣れた商店街もつぶれていると思いましたが、幸い自身の店舗は甚大な被害を受けずに済みました。不幸中の幸いでしたが、すぐに総菜店の営業を再開する気分にはなれませんでした。気力が湧かない私の姿を見かねた父親はげきを飛ばしました。
「こんな時やからこそ、商売人は一刻も早く店を開けなあかん!」。この一言で、冷静になることができました。すぐに近所の知人に頼み、プロパンガスを手配してもらいました。また調理に必要な器具を急いで買い集めました。震災から翌月の2月5日には総菜の販売を再開しました。ですが、すぐに売れていくような気配はありませんでした。
ある日、訪れる人から「温かいご飯ありますか」と尋ねられました。あって当たり前の温かいご飯なのに、被災した人はそんな当たり前のものを欲しがっているんだ、と思いました。すぐに「あたたかいご飯あります」と書いた紙を貼りました。温かいご飯を販売していることは瞬く間に広まり、注文が殺到しました。再開当時は電気釜2台でしたが、ご飯の発注量に追いつかないため4台に増やしました。その頃には1日に1俵のお米を炊くようになり、目の回るような忙しい毎日でした。
「商店街が良くならないと、宮川小学校も良くならない」。この言葉を聞いて、商店街はもちろん、地域の活性化と子どもたちの生活環境や心は密接につながっていると感じました。そのために私にできることは、やはり商店街にある自身のお店、おかずふぁくとりーを盛り上げること。これもまた復興につながることだと考えました。
長田区は広範囲なため、自分たちの商店街の位置が認知されにくいという問題点がありました。そこで振興組合では平成8年に商店街の名称を長田商店街から「長田神社前商店街」に変更し、地域の認知度の向上と区別化を図ることを狙いました。これと共に、震災前から活動していた神戸市営地下鉄と神戸高速鉄道の長田駅の副名の改名を実現し、「長田神社前」になりました(平成11年12月1日)。
また地域活性化の活動の一環として、長田神社前商店街のランドマークである大鳥居の改修工事・竣工式を平成8年6月28日に執り行いました。同年7月25日には女優で写真活動も行なっている黒田福美さんが発案したカタログ販売「がんばってます KOBE」を発足させました。平成10年には”子どもたちが遊ぶ”というコンセプトの「アジアの文化祭」を開催しました。この祭りは商店街を軸に振興組合で立案し、地域の方たちによるボランティアによって開催しました。初めての地域活動となる画期的なものでした。
このカード事業では、ポイントを現金として使用できる以外に、寄付ができることが最大の特徴となっています。購入金額100円未満の端数分のポイントを年間蓄積し、個人の指定した団体(地域の婦人会や自治体、PTA、ボランティア団体)へ寄付できます。「地域の人たちとの関わり合い」によって「地域に貢献できる」という事業を実現できたことは非常に喜ばしいことです。
事業の成功も伴い長田神社前商店街は、平成25年末に経済産業省から「がんばる商店街30選」に選定されるという栄誉に輝きました。同年、カードは「萬福カード長田」へ移行され、従来の特徴を持ちつつ、安心と安全をサポートするという特徴を加えたものとなっています。今後もさらに地域の活性化につながることが期待できます。
「寂しい夏祭りだね」。自身の総菜店の前を通りかかったお祭りのお客さんが何気なく発した言葉を聞き、居ても立ってもいられず、あわてて長田神社へ飛んで行きました。確かにお客様の言葉通り、閑散とした祭りでした。お客様や屋台が少なく、これではいかんと思いました。
想いを行動に移し、すぐさま地域の人たちが集まる水曜会議で提案し、より多くのお客様に訪れてもらえることを目標とした議論を行いました。そこで私は、補助金制度を活用して、「夏越ゆかた祭」をしっかりとしたイベントにしようと提案しました。さらに4つある婦人会のために、拠点となるブースをつくり、活動しやすいようにしました。こうして徐々に積み上げてきた結果、現在は地域の婦人会やPTA、商店街の人たちのボランティアの支えも加わり、多くのお客様が訪れてくれる大きな祭りになりました。夏祭りを筆頭に、地域の人たちが意欲的に活性化の活動に取り組む理由は”住みたいまち”、”訪れたいまち”、まちの魅力アップをはかる「福のあるまち長田神社前」を地域のみんなで目指しているからだと確信しています。
私をはじめとする振興組合の宅配事業は、組合のカード事業を新しくする際に立ち上げた「グージーサービス有限責任事業組合」の活動の1つとして取り組んでいます。まだまだこれからの事業ですが、「安心・安全を目指す」宅配事業は長田独自の問題の解消も実現できると期待しています。宅配の利用者からは「顔の見える相手からの宅配サービス」という点に安心感がある、と喜ばれています。
宅配サービスでは、地域の人たちを対象にカタログを配布しています。商店街の各店舗で取り扱っている品物や各店舗によるオリジナルの詰め合わせなどを取り扱っており、電話やFAXで注文を受けています。2,000円以上お買い上げの方は、宅配料が無料というシステムです。宅配事業は今後さらにサービスを拡大・向上させ、地域の人たちの安心・安全をさらに向上させていく活動として、期待しています。
OLでしたが、実家の練り製品の店を手伝うために退職しました。すぐに練り製品の修行を開始し、並行して精進揚げの手法を叔父のもとに通って学びました。当初から、実家の事業だけを継ぐのではなく、幅広いものを製造・販売する店にしよう、と考えていました。そこで注目していたのは総菜で、これからの時代、必ず脚光を浴びる、と思っていました。
この考えに基づいた総菜店「おかずふぁくとりー」を平成元年にオープンしました。とはいえ、世間では総菜をお店で購入するということが定着はおろか、認識されていない状況でした。簡単に売れるということはなく、しばらくはオリジナルレシピを試行錯誤する毎日でした。そこで生み出されたのが、おかずの盛り合わせとご飯を別々に販売するという方法でした。このスタイルが受け入れられ、お客様に喜ばれるようになりました。
商店街が元気にならないと、地域は盛り上がらない、と考えています。そのためにはこれからを担う若者が必要で、若者を呼ぶためには商店街をはじめ、この地域に安心して働ける場所が必要です。今後は長田区が若者をはじめとして、多くの方にとって働きやすい環境を備えた地域になるよう、活動を続けていけたらと考えています。